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  「顎関節症」


構造医学的考察を加えて

近年顎関節症が増えてきており、一般的にも知られるようになってきました。歯科では、う蝕・歯周病に次ぐ第三の病気といわれています。これまで顎関節症は、顎関節の痛み・開口障害・顎関節部で「ガクッ」「ザラッ」というような雑音があるというのが主症状でした。最近では、それ以外に頭痛(偏頭痛)・肩こり・首の痛み・手のしびれ・めまい・吐き気・耳鳴り・難聴・鼻づまり・動悸・息切れ・不整脈・呼吸困難といった症状のほか、イライラ・不眠・気力の減退・集中力の低下といった精神症状も現れます。 歯科では、最初の三大症状から咬合の問題としてとらえ咬合調整による下顎の安定化から大規模な咬合再構成による顎位の変更まで行われました。その後顎関節内部の問題として、顎関節内障の概念が1980年代初期にアメリカから持ち込まれ、顎関節円板転位に対する治療として下顎前方型スプリントによる保存療法と、関節開放術及び顎関節鏡視下手術による外科療法の2つに分かれるようになりました。しかしながら画像審査により、外科療法・保存療法にかかわらず円板整位が重大な症状の変化をもたらさないことが示されるようになりました。これによって顎関節内障の最終的治療目標は、転位円板を整位することから転位した円板に対して顎運動を適応させ、疼痛がなく円滑に機能を獲得することへと変わってきました。
 日本顎関節学会が出している顎関節症の定義は、「顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節(雑)音、開口障害ないし、顎運動異常を主症候とする慢性疾患郡の総括的診断名であり、その病態には咀嚼筋障害、関節包・靭帯障害、関節円版障害、変形性関節症などが含まれている。」となっていますが、実際にはそういった症状の患者さんは少なく、頭痛,肩こり,首すじの痛み,耳鳴り,吐き気,手のしびれといった不定愁訴を訴える患者さんのほうが多いようです。重症の場合は、歩行困難になったり、精神障害がでたりして日常生活に支障をきたすようになってきます。また「耳の中に水が溜まっている感じがする」とか「首すじに空気が通り抜けていく感じがする」という人もおられます。
 十数年前より私も取り組んできましたが、咬合治療で治っていく人と治っていかない人が出てきました。そこで、日本構造医学を勉強するようになりました。この日本構造医学は、熊本の吉田勧持先生という方が考案された学問です。吉田先生はアメリカのNASAまでいかれた物理学者です。ある事から「生命」というものに興味を持ち始め、人体の研究をはじめられました。地球の誕生以来変わることのない「重力」を基軸として演繹(えんえき)的手法で人体構造のあるべき姿を解明した学問です。構造医学では、顎関節症の患者さんはすべて頚椎に問題を持っておりますので、「顎頚部症候郡」と呼んでおります。 なぜ顎関節症が起こるか一言でいえば「咬み合わせのひずみをはじめとする全身のひずみ」が原因です。ですから「咬合(噛みあわせ)が原因」であったり「咬合(噛みあわせ)以外のものが原因」であったりするのです。咬合が原因の場合は咬合治療で良くなっていきます。咬合以外のものが原因の場合は、いくら咬合治療をしても良くなっていきません。顎関節症の患者さんの治療を始める時、「咬合が原因か」「咬合以外のものが原因か」を見極める必要があります。どちらも、咬み合わせのひずみ,頚椎のひずみがあり、症状も同じように開口障害があったり,頭痛,肩こり,首すじのこりや痛みがあります。 下顎はつりさげられた状態で、どこにでも変化していくものなのです。(構造医学では下顎を重鐘と呼んでいます。)
 顎関節症の患者さんは、ほとんどの人が咬合高径(噛みあわせの高さ)が低くなっていますし、下顎がどちらかに偏位(かたむいていること)しています。また、下顎頭[(あごの関節の骨)は後方に位置しています。顔貌にも変化が見られます。口元がどちらかに傾き、目と口角との距離が左右違ってきます。短く口元の上った方が患(偏位)側です。又、鼻尖も曲がってきます。口腔内は、舌の傾きと口蓋垂の傾きが見らます。 開口障害の人と閉口障害の人では違ってきますが、閉口障害の人は非常に少なく開口障害の人がほとんどですので、開口障害の人を対象に話をすすめていきます。
 構造医学的な話をすれば、構造医学では、顎関節症のことを顎頚部症候群といい下顎と頚椎(首の骨)は連動するものと考えています。顎運動(あごの動き)と頚椎(首の骨)が協調する顎関節頚椎協調支点は第三頚椎にあります。顎関節症の人は、第二頚椎と第三頚椎の滑走性支持不全がおこります。下顎骨と第三頚椎が同調してずれをおこします。もっと正確に言えば、舌骨と第三頚椎は同位レベルにあり舌骨と下顎骨は同体なので、下顎骨がずれを起こせば第三頚椎もずれを起こします。逆に 第三頚椎がずれを起こせば下顎骨もずれを起こします。ですから、咬合以外のものが原因でも下顎のずれを起こすのです。第一頚椎(環椎)は第三頚椎と同側のずれを起こし、第二頚椎(軸椎)は逆側のずれを起こします。この時 舌骨は動滑車の役目をはたします。三叉神経の脊髄路核が解剖学的に第三頚椎レベルまで下降していて、眼枝は第一頚椎レベル、上顎枝は大二頚椎レベルというように骨節レベルが一致しています。このうち第三頚椎レベルが顎関節頚椎協調支点である為、偏位側の第三枝が索引性に障害された結果同側栄養血管系に悪影響を及ぼし、異栄養性萎縮を起こすのです。パノラマX線写真でもわかりますが、患側いわゆる偏位側の下顎頭の方が小さく写ります。
 では、実際にどういった時に顎関節症は起きるのでしょうか。「咬合が原因」の場合、人体には許容量があり咬合の低下や下顎のずれをおこせばすぐ発病するのではなく、ある限度を超えた時に発病するのです。その限度に近い人に、例えば?6?のブリッジを作る時咬合(噛みあわせ)が低いブリッジ(固定式かぶせ物)を装着したら、顎関節症が発病する可能性があります。上顎側切歯が舌側(内側)に入り込んだ咬み合わせの人は、一方向にしか顎が動かないため偏側咬みが続き下顎の偏位が起こります。下顎の第三大臼歯(智歯)が挺出してきたら、これを避けようとして下顎の偏位が起こります。
 次に治療ですが、「咬合が原因」の場合は咬合治療で治っていきます。普通行われるのは、スプリント療法です。その結果咬合の再構成が必要な場合もでてきます。頚椎のひずみも引き起こしていますから、咬合治療と同時に構造医学的な頚椎の治療を行うと早く治ります。「咬合以外のものが原因」の場合ですが、先程下顎のずれが起これば第三頚椎がずれる。逆に第三頚椎ずれれば下顎もずれるとお話ししました。一番解かりやすいのが「ムチ打ち症」です。直接頚椎に外力がかかり頚椎のひずみを引き起こすことはよく理解できると思います。
 ヒトは、1Gの重力の中で直立二足歩行をしています。悪い姿勢のままで生活をしていますと体にひずみが起こります。重力の場では、骨盤でバランスをとりここにひずみが起きると全身にひずみが起こってきます。特に仙骨と腸骨の仙腸関節が重要になってきます。仙腸関節に外力がかかってもひずみが起こります。解かりやすいのは「尻もち」です。たかが「尻もち」とあなどってはいけません。尻もちが原因で立ち上がれなくなったり、歯科では開口障害を引き起こすこともあります。顎関節症と同じ様な症状が出てきます。このような患者さんに咬合治療を行っても良くなっていきません。構造医学的な処置が先に必要です。
 最後に、顎関節症は、「咬合が原因か」「咬合以外のものが原因か」を見極めることが重要となります。 

○噛むということ
 現代人は、ファーストフードに代表されるように軟らかい食べ物を多くとっています。その結果咀嚼力が著しく落ちています。しっかり噛まないと胃腸にも良くないし、又唾液が出にくくなることは理解できることと思います。噛むことにより脳への血流が良くなりますし、骨性伝道刺激により脳を活性化させます。歯を失い噛めなくなると、脳への刺激が減少し痴呆性も高まります。
 健康な人の噛む力は、自分の体重を支える位の力が出ます。噛み合わせに問題があったり、歯周病や顎関節症などの問題があったりすると、噛む力は著しく弱くなります。つまり、咀嚼力は口腔内の状態により変化します。
 人間が一生でとる食べ物は総当量となります。咀嚼力の弱い人は、それだけ体に負担となります
○ 幼児期の咀嚼
 噛むことと脳はすごく相関関係があります。かなり前ですが、サルでの実験で、片方の歯を抜いて逆の片方の歯だけが噛めるという研究が行われました。その結果噛める側の脳は発育がみられましたが、噛めない側の脳の発育が著しく悪いという結果でした。噛むということは、脳の発育に大きな影響があるということです。
 赤ちゃんの頃母乳を吸うというのは、本能ですが生後数ヶ月たって流動食を口に運び飲み込むことを覚えはじめます。乳歯がどんどん生えてきて、本格的な噛む食事が始まります。その時に軟らかい食事ばっかりとっていると、顎の成長が十分できません。その為に歯の生える場所がなくなり、歯並びが悪くなります。今の子供達の大部分がこの状態です。その結果顔貌にも変化がおこります。左右非対称となります。
 又、噛み合わせが悪いといろいろな問題が起こりやすくなります。バイ菌がたまりやすくなり、ムシ歯や歯周病が起こりやすくなり歯を失う可能性が増大します。その他顎関節症になりやすくなり、一生の見方をしますと損する人生となります。
○咀嚼の仕組み
 ものを噛む時には、顎の関節・顎の筋肉・舌等の口の周りの組織が相互に協力しあって動くことが必要です。顔面頭蓋骨の中で最も大きく成長する骨は、上顎骨です。上顎骨というのは上アゴの骨です。この上顎骨の成長が十分でなければ歯並びが悪くなり、噛み合わせにも大きな影響をおよぼします。そうなると、周りの筋肉も正常な働きができなくなります。それにより少しづつ口のまわりの歪が起こります。その結果色々な症状が出てきます。つまり顎関節症です。
 人間の咀嚼は、複雑な運動をしているということです。人間は雑食性の動物です。肉食動物は、肉や骨を噛み砕く強い歯(牙)と顎を持っています。顎の動きは上下運動です。それに比べて草食動物は、草等の繊維性の食べ物をすり潰す横の運動となります。人間は前歯が噛み切る役目で、奥歯はすり潰す役目があります。それぞれの役目に応じた運動が必要となります。ひずみがあると、これらの運動がスム−ズに行われなくなります。
 よく食べ物を噛む時は、1口で30回は噛むようにと言われています。よく噛むことは食べ物を細かく噛み砕いて消化吸収を良くするだけでなく、唾液がよく出るようになります。唾液には炭水化物を分解する消化酵素のアミラーゼが含まれています。又、老化防止の酵素も含まれていると言われています。唾液が減少すれば、食べ物が飲み込みづらくなります。
 咀嚼運動により脳に刺激が伝わってこんどは胃へ伝達され胃は胃液を分泌し、消化態勢を整えます。つまり噛まなければ、胃腸にも負担がかかってきます。さらによく噛むことにより、神経伝達物質のヒスタミンが分泌されます。これが脳の消化中枢に働きかけて必要以上に食べ過ぎてしまうことを防ぎます。ゆっくりよく噛むことで、満腹感となり肥満防止になります。